大判例

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東京地方裁判所 昭和60年(ワ)6339号 判決

原告 北川雄重

〈ほか二〇名〉

右原告ら訴訟代理人弁護士 井田恵子

同 内田剛弘

同 田原俊雄

同 平賀睦夫

同 森本宏一郎

同 槇枝一臣

同 山口廣

同 山崎恵

同 相沢光江

同 市川昇

同 相原英俊

同 城戸浩正

被告 東京都

右代表者知事 鈴木俊一

右訴訟代理人弁護士 石葉光信

右指定代理人 樋口嘉男

〈ほか三名〉

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告ら各自に対し、それぞれ金五万円及びこれに対する昭和五九年一二月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

2  被告は、原告北川雄重に対し、金一〇〇万円及びこれに対する昭和六一年一月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

3  訴訟費用は、被告の負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  主文同旨の判決

2  請求が認容され、仮執行の宣言が付された場合につき、仮執行免脱宣言

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告らは、東京都練馬区に居住する東京都民であり、東京都議会(以下「都議会」という。)議員選挙に関し選挙権を有する。

2  都議会は、昭和五九年一二月一四日東京都議会議員の定数並びに選挙区及び各選挙区における議員の数に関する条例(昭和四四年東京都条例第五五号)における議員定数の配分についての規定に関し、都議会自由民主党、都議会公明党、都議会民主クラブ共同提案に係る次の内容の改正案を議決し、東京都知事鈴木俊一(以下「都知事」という。)は、同年一二月二〇日これを公布した(以下この改正を「本件改正」、改正前の条例を「旧条例」、改正後の条例を「本件改正条例」という。)。

(選挙区) (旧定数) (新定数)

千代田区選挙区 二人 一人

中央区選挙区 二人 一人

台東区選挙区 四人 三人

八王子市選挙区 二人 三人

府中市選挙区 一人 二人

西多摩選挙区 一人 二人

3  本件改正は、かねて旧条例の定める議員定数が各選挙区の人口比に照応せず、投票価値の平等(一票の重み)を著しく侵害し、東京高等裁判所昭和五八年七月二五日判決及び最高裁判所昭和五九年五月一七日判決により違憲違法とされたため、これを是正するために行われたものであるが、本件改正においては、議員一人当たりの人口が最も多い練馬区選挙区についての議員定数の増員が盛られていなかったため、原告らの居住する練馬区選挙区に関し、次のような著しい投票価値の不平等が放置される結果となった。

(一) 投票価値の不平等

(1) 昭和五五年国勢調査の結果に基づき練馬区選挙区と荒川区選挙区の各人口及び議員定数を比較すると、議員一人当たりの人口の較差は、次のとおり二・八五倍となる。

(選挙区) (人口) (定数) (較差)

練馬区選挙区 五六万四一五六人 四人 二・八五

荒川区選挙区 一九万八一二六人 四人 一・〇〇

(2) 昭和六〇年八月一日現在の練馬区選挙区と荒川区選挙区の各人口及び議員定数を比較すると、議員一人当たりの人口の較差は、次のとおり三・一六倍となる。

(選挙区) (人口) (定数) (較差)

練馬区選挙区 五八万三一一九人 四人 三・一六

荒川区選挙区 一八万四〇七六人 四人 一・〇〇

(二) 逆転現象

昭和五五年国勢調査の結果に基づき練馬区選挙区と他選挙区の各人口及び議員定数を比較すると、練馬区選挙区は、次のとおり新宿区選挙区、品川区選挙区、杉並区選挙区、北区選挙区、及び板橋区選挙区より人口が多いにもかかわらず、議員定数が少ないという逆転現象が生じている。

(選挙区) (人口) (定数)

練馬区選挙区 五六万四一五六人 四人

新宿区選挙区 三四万三九二八人 五人

品川区選挙区 三四万六二四七人 五人

杉並区選挙区 五四万二四四九人 六人

板橋区選挙区 四九万八二六六人 五人

4(一)  およそ選挙権は、民主主義社会を組織構成する基盤をなす重要な基本的人権であるので、議員定数の配分は人口比に応じて行われなければならず、投票価値の平等は最大限保障されなければならない。

前掲東京高裁判決も「選挙区制をとる選挙にあたっては各選挙区間で選挙人の投票価値は不平等が生じないように定数の均衡がはかられるべきことは憲法上の要請である。」と論じ、また、前掲最高裁判決も「地方公共団体の議会の議員の選挙に関し、当該地方公共団体の住民が選挙権行使の資格において平等に取り扱われるべきであるにとどまらず、その選挙権の内容、すなわち投票価値においても平等に取り扱われるべきであることは憲法の要求するところである。」と論じ、投票価値の平等を権利として保障しているところである。

(二) 上述の投票価値の平等に関する理念に照らせば、およそ投票価値の較差が二倍を超える場合、その定数配分の定めは、憲法一四条の定める法の下の平等に違反するというべきである。

(1) 最高裁判所大法廷昭和六〇年七月一七日判決は、昭和五八年一二月一八日実施の第三七回衆議院議員選挙につき議員定数の不均衡が憲法の定める選挙権の平等に反し違憲であると判断したが、原審である広島高等裁判所昭和五九年九月二八日判決は、右事件について、議員一人当たりの人口についての選挙区間における最大較差が一対二を超えた場合は違憲状態に入ったことを一応推定させると判示している。

(2) 東京高等裁判所昭和六一年二月二六日判決は、本件改正条例に基づく昭和六〇年七月七日実施の東京都議会議員選挙につき、地方議会選挙で許される較差は二倍を限度とする旨の基準を示したうえ、これを違憲と判断した。

(三) 本件改正条例は、昭和五五年国勢調査の結果によっても、練馬区選挙区と荒川区選挙区の較差につき二・八五倍を許容し、昭和六〇年国勢調査の結果によれば、右較差は三・一六倍にもなっており、右各判例の判示した基準によれば、本件改正の違憲性は明らかである。また、右較差の拡大は、本件改正条例が審議された当時において容易に予想しえたところである。

(四) 以上のとおり、右改正の当時において、練馬区選挙区の議員定数を増員せず、著しい投票価値の不平等及び逆転現象を容認する議員定数の配分を放置することは、一見して明白に違憲かつ違法である。

5  このように、本件改正条例は、違憲の疑いが濃いものであったので、原告ら練馬区住民は、投票価値の平等の実現を強く希求し、練馬区議会も、これがため、昭和五四年三月一三日東京都議会議員の定数の是正を求める意見書を都知事宛に提出し、昭和五八年一〇月三日東京都議会議員の定数配分の是正を求める意見書を都知事宛に提出した。

しかるに、都議会の各議員は、練馬区選挙区の議員定数を増員して投票価値の平等を実現する条例の改正を行わず、本件改正の議案が違憲違法なものであることを知りながらこれを議決し、都知事は、練馬区選挙区の議員定数を増員して投票価値の平等を実現する条例改正案を自ら都議会に提出することをせず、また、都議会による違憲違法な本件改正の議案の議決につき異議を述べて再議に付する処置をとらず、これを公布した。

右のとおり、東京都の公務員である都議会議員及び都知事の故意または少なくともこれと同視すべき重大な過失により、違憲違法な本件改正がなされ、原告ら練馬区住民の投票価値は著しく侵害される結果となった。

6  昭和六〇年都議会議員選挙の結果の不平等

(一) 原告北川雄重(以下「原告北川」という。)は、昭和六〇年七月七日実施の都議会議員選挙に練馬区選挙区から立候補し、二万八五八四票を獲得し、同選挙区の立候補者六人のうち五位となったが、同選挙区の議員定数が前記のとおり四人のまま据え置かれていたため、次点にとどまり、落選した。

(二) 原告北川の得票数二万八五八四票は、東京二三区の各選挙区(議員定数合計九九人)の全立候補者一六四人のうち三一位の得票数であり、荒川区選挙区、千代田区選挙区、中央区選挙区、港区選挙区、新宿区選挙区、文京区選挙区、台東区選挙区、墨田区選挙区、目黒区選挙区、渋谷区選挙区、中野区選挙区及び豊島区選挙区の各一位当選者の得票数を上回るものであった。

(三) 右選挙は、練馬区選挙区に大量の死票を生じさせ、著しく不平等かつ不合理であり、原告ら練馬区住民の投票価値を甚だしく侵害するものであった。

7  かねてより練馬区選挙区の議員定数の増員を希求していた原告らにおいては、右投票価値の侵害により重大な精神的損害を蒙ったので、これを慰謝するため、被告は、原告らに対し、少なくとも各金五万円宛支払うことを要する。

8(一)  原告北川は、6記載のとおり昭和六〇年七月七日実施の都議会議員選挙に練馬区選挙区から立候補し、二万八五八四票を獲得したが、被告が議員定数の是正を違法に放置し、練馬区選挙区の議員定数の増員を怠ったため、次点にとどまり落選した。

(二) このため、原告北川は、少なくとも法定選挙費用に相当する金七〇〇万円の損害を受けた。

(三) 仮に、右法定選挙費用が損害に当たらないとしても、原告北川が違法な定数の定めの下で落選したことにより蒙った精神的損害は甚大であるから、これを慰謝するため、被告は、原告北川に対し、少なくとも金一〇〇万円を支払うことを要する。

9  よって、原告らは、被告に対し、国家賠償法(以下「国賠法」という。)一条一項に基づき、慰謝料として各金五万円及びこれに対する不法行為の日の後である昭和五九年一二月二一日から支払済みまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金、原告北川は、被告に対し、右条項に基づき、主位的に法定選挙費用相当額の損害金の一部として、予備的に慰謝料の一部として、金一〇〇万円及びこれに対する不法行為の日の後である昭和六一年一月二一日から支払済みまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実は認める。ただし、都議会民主クラブの所属議員のうち、四名のものは本件改正の議案の提案者となっていない。

3  同3のうち、旧条例の定める議員配分の規定が東京高等裁判所昭和五八年七月二五日判決及び最高裁判所昭和五九年五月一七日判決により違法と判断されたこと、本件改正の内容が議員一人当たりの人口が特別区の中で最も多い練馬区選挙区につき議員定数の増員を盛り込まないものであったこと、練馬区選挙区と荒川区選挙区の昭和五五年国勢調査の結果による人口及び両選挙区の議員定数がいずれも原告ら主張のとおりであり、かつ、両選挙区の人口及び議員定数を比較すると議員一人当たりの人口の較差が二・八五倍になること、荒川区選挙区の昭和六〇年八月一日現在の人口(練馬区選挙区の同日現在の人口は五八万三一一三人である。)及び両選挙区の議員定数がいずれも原告ら主張のとおりであり、かつ、両選挙区の人口及び議員定数を比較すると議員一人当たりの人口の較差が三・一六倍になること、練馬区選挙区が新宿区選挙区、品川区選挙区、杉並区選挙区、北区選挙区及び板橋区選挙区より人口は多く、議員定数は少ないこと、新宿区選挙区、品川区選挙区、杉並区選挙区及び板橋区選挙区の人口及び議員定数がいずれも原告ら主張のとおりであることは認め、原告らのその余の主張は争う。

4  同4のうち、東京高等裁判所昭和五八年七月二五日判決及び最高裁判所昭和五九年五月一七日判決がそれぞれ原告の引用のとおり論じていることは認め、原告らのその余の主張は争う。

5  同5のうち、練馬区議会が昭和五四年三月一三日付及び昭和五八年一〇月三日付で原告ら主張の内容の各意見書を都知事宛に提出したこと、都議会が本件改正の議案を議決したこと、都知事が原告主張の内容の条例改正案を都議会に提出せず、都議会による本件改正の議決につき再議に付する措置をとらず、これを公布したことは認め、原告らのその余の主張は争う。

6  同6(一)の事実は認める。同(二)の事実は、原告北川の得票数が東京二三区の全立候補者中三一位であるとの点を除き(実際には三二位である。)、認める。同(三)の主張は争う。

7  同7の事実は知らない。原告らの主張は争う。

8  同8(一)の事実のうち、原告北川が昭和六〇年七月七日実施の都議会議員選挙に練馬区選挙区から立候補し、二万八五八四票を獲得したこと、同選挙区の議員定数が増員されていなかったことは認め、原告北川のその余の主張は争う。同(二)の事実は知らない。

三  被告の主張

1  定数条例改正の推移

東京都議会議員の定数並びに選挙区及び各選挙区における議員の数に関する条例(以下「定数条例」という。)は、当初昭和二二年東京都条例第三一号として制定されたが、昭和四四年東京都条例第五五号により全面的に改正された。この定数条例における選挙区及び選挙区別定数の配分の定めについての改正の推移は、次のとおりである。

(一) 昭和四四年改正(同年三月東京都条例第五五号による全部改正)においては、①都議会議員定数の総数を一二〇人から一二六人に増員し、②増加分六人を多摩地区に配分し、多摩地区において選挙区の分区及び合区を行った。

(二) 昭和四八年には、①都議会議員の定数の総数を一二六人から一二五人へ一人減員し、②特別区の存する区域では、台東区選挙区及び品川区選挙区において各一人の定数減、練馬区選挙区において一人の定数増を行い、③多摩地区において、北多摩第二選挙区(定数四人)を府中市選挙区(定数一人)及び北多摩第二選挙区(定数三人)に分区した。

(三) 昭和五二年には、①都議会議員の定数の総数を一二五人から一二六人に一人増員し、②町田市選挙区において定数を一人から二人に増員し、③北多摩第一選挙区(定数三人)を北多摩第一選挙区(定数二人)及び北多摩第五選挙区(定数一人)に分区した。

(四) 昭和五六年には、①都議会議員の総定数を一二六人から一二七人に一人増員し、②南多摩選挙区(定数一人)を日野市選挙区(定数一人)及び南多摩選挙区(定数一人)に分区した。

(五) そして、昭和五九年一二月の改正(本件改正)においては、千代田区選挙区、中央区選挙区及び台東区選挙区の定数を各一人減員し、八王子市選挙区、府中市選挙区及び西多摩選挙区の定数を各一人増員した。

右改正により、地理的条件が極めて特殊である島部選挙区を除いた全選挙区のうち、議員一人当たりの人口(昭和五五年国勢調査の結果による。以下同じ。)が最も少ないのは、それまで千代田区選挙区(一人当たり二万四七〇一人)であったのが、荒川区選挙区(一人当たり四万九五三二人)となった。この結果、これと練馬区選挙区の議員一人当たりの人口(一四万一〇三九人)との対比は、それまでの一対五・一五から一対二・八五へと縮小した。

2  原告らは、都議会が定数条例に基づく議員定数配分の規定について、議員提出にかかる違憲違法な改正案を議決し、また、都知事が、定数条例の改正案を自ら都議会に提出しなかったうえ、都議会の右議決が違憲違法なものであるのに異議を述べて再議に付する手続をとらずに定数条例を改正する条例を公布したため、原告ら練馬区住民の投票価値を著しく侵害されたと主張する。

しかしながら、以下に述べるとおり、本件改正条例による議員定数配分の規定は決して違憲違法なものではなく、また、都議会が本件改正の議案を議決したことには何ら違法性もなく、故意はもとより過失もなかったものである。

さらに、都知事が自ら定数条例の改正案を都議会に提出しなかったことにも、また、都議会の右議決につき異議を述べて再議に付する手続をとらずに本件改正条例を公布したことにも、何ら違法性がなく、故意も過失もなかったものである。

最高裁判所は、いわゆる在宅投票制度の廃止及びその後の立法不作為に関する国家賠償請求についての二件の上告審判決(最高裁判所昭和五三年(オ)第一二四〇号事件、同昭和五七年(オ)第一〇二九号事件各昭和六〇年一一月二一日第一小法廷判決)において、国会議員の立法行為(立法不作為を含む。以下同じ)については、原則として国賠法一条一項の適用上違法の評価を受けない旨判示しているところ、右最高裁判決の法理は、本件における都議会議員及び都知事の行為についても当てはまるので、これを援用する。

右最高裁判決は、その理由中で、「国会議員の立法過程における行動で、立法行為の内容にわたる実体的側面に係るものは、これを議員各自の政治的判断に任せ、その当否は終局的に国民の自由な言論及び選挙による政治的評価に委ねるのを相当とする。」「国会議員の立法行為は、本質的に政治的なものであって、その性質上法的規制の対象になじまず、特定個人に対する損害賠償責任の有無という観点から、あるべき立法行為を措定して具体的立法行為の適否を法的に評価するということは、原則的には許されないものといわざるをえない。」「国会議員は、立法に関しては、原則として、国民全体に対する関係で政治的責任を負うにとどまり、個別の国民の権利に対応した関係での法的義務を負うものではない。」とし、結局「国会議員の立法行為は、立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行うというごとき、容易に想定し難いような例外的な場合でない限り、国家賠償法一条一項の規定の適用上、違法の評価を受けないものといわなければならない。」と判示している。

右に引いた判決理論は、国政と地方自治との違いはあるが、都議会議員が法律の範囲内で行う広義の立法行為である条例の制定・改廃行為(不作為を含む。以下同じ)についても妥当するものである。すなわち、都議会議員の条例の制定・改廃行為は、本質的に政治的なものであり、右行為に関する都議会議員が負うべき責任については、住民全体に対する関係で政治的責任を負うことは格別として、議員は、個別の住民の権利に対応した関係での法的義務を負うものではなく、条例の制定・改廃行為の内容が、上位規範たる憲法・法律等の一義的な文言に違反しているにもかかわらず、議会があえて当該条例の制定・改廃を行うがごとき、容易に想定し難いような例外的な場合でない限り、国賠法一条一項の規定の適用上、違法の評価を受けないのである。

これを本件改正の行為についてみると、改正の内容が憲法や公職選挙法(以下「公選法」という。)の一義的な文言に違反しているとは到底いえないことについては、後述のとおりであるから、都議会議員の行為に国賠法一条一項における違法性は存しない。

次に、都知事の行為については、都知事も住民による直接選挙によって選出されることは都議会議員と同様であり、また原告らが違法視する条例案不提出、都議会の議決を再議に付さない行為及び条例公布行為は、いずれも広義の立法行為というべきものであるから、やはり、住民全体に対する政治的責任は別として、国賠法一条一項における違法性が肯定されるのは、これらの行為の結果として憲法や公選法の一義的な文言に違反する内容の条例が実在するに至った場合に限られるが、本件がこれに該当しないことは、先に都議会議員の行為について述べたのと同様である。

したがって、都議会議員及び都知事の行為には、いずれも国賠法における違法性はない。

4  原告らは、本件改正条例に基づく議員定数配分の規定が違憲違法であるとする理由として、荒川区選挙区の議員一人当たりの人口(昭和五五年実施の国勢調査結果による人口)と練馬区選挙区のそれとを比較すると一対二・八五となり、人口比例の原則に反する旨指摘する(なお、原告らは、練馬区選挙区の議員定数が同選挙区の人口よりも少ない新宿区選挙区などの五つの選挙区の議員定数よりも少ないこと(逆転現象)を指摘するが、逆転現象も結局は人口比例の問題に帰着する。また、原告らは、荒川区、練馬区の両選挙区の人口を昭和六〇年八月一日現在の人口でみると、一対三・一六となる旨指摘するが、地方自治法は、都道府県議会の議員の定数を人口によって定めており、(同法九〇条)、その人口は官報で公示された最近の国勢調査またはこれに準ずる全国的な人口調査の結果による人口によるとしていること(同法二五四条)及び公選法が衆議院議員の定数配分につき国勢調査の結果によるものとしていること(同法別表末尾)に鑑みると、右のような調査結果によらない人口で対比することは、それ自体失当なものというべきである。

しかしながら、原告らの指摘する一対二・八五の較差があるからといって、そのことの一事をもって本件改正条例が違憲違法なものであるということはできない。

すなわち、各選挙区に議員定数を配分する際に考慮すべき投票価値の平等、換言すれば選挙区間の投票価値にどの程度の較差が許容されるかの判断基準は、単に議員一人当たりの人口のみによってなしてはならない。たしかに、公選法は、議員定数の選挙区配分について人口比例で行う旨規定しているが(同法一五条七項本文)、これとても、議員定数に上限がある(地方自治法九〇条)などのため、配分技術上ある程度の較差が生じることは避けられない。また、各選挙区はそれぞれ地域的特性を有しており、その行政需要も区々であって、それらの行政需要を的確に議会に反映させるためには、人口比例のみによっては却って不都合な場面が生じる。右の点に鑑み、公選法は、議員の定数につき、おおむね人口を基準として、地域間の均衡を考慮して定めることができる旨規定し(公選法一五条七項但書)、地方公共団体の議会に、定数配分の規定を定めるにあたって、人口比例により算出される数に地域間の均衡を考慮した修正を加えて選挙区別の定数を決定する裁量権を与えている。

そうすると、議会の裁量権がどの程度まで認められるか、換言すれば各選挙区間の定数配分における較差がどの程度まで許容されるかが問題となるが、憲法はもとより、公選法を初めとする法律は、その具体的基準を全く示していないし、終局裁判所である最高裁判所も、その判断基準を示していない(もっとも、最高裁判所昭和五八年一一月七日判決は、最大較差一対四・八三から一対二・九二に縮小したことをもって、投票価値の不平等状態は、一応解消されたものと評価することができる旨判示している。)。

ちなみに、下級裁判所の判決を見ると、判断基準を三倍程度とするもの(昭和五八年四月一〇日施行の千葉県議会議員選挙に係る選挙無効訴訟の東京高等裁判所昭和五九年八月七日判決、昭和五八年一二月一八日施行の衆議院議員選挙に係る選挙無効訴訟の同裁判所昭和五九年一〇月一九日判決及び大阪高等裁判所昭和五九年一一月二七日判決)、三倍を相当程度上回る場合とするもの(前記衆議院議員選挙に係る選挙無効訴訟の同裁判所昭和五九年一一月三〇日判決)などがある。

右判例を考慮しても、本件における二・八五倍の較差は、都議会の裁量権の合理的範囲内にあることは明らかであるから、原告らの主張はその前提において失当である。

5  原告らは、本件改正条例が違憲違法であることは一見して明白であり、これを議決した都議会及び再議に付することなくこれを公布した都知事には、故意または少なくともこれと同視すべき重大な過失があった旨主張する。

しかしながら、右4で述べたとおり、本件改正条例は、そもそも違憲違法なものとはいえず、仮に、右条例が客観的に違憲違法であるとしても、そのことのゆえに、都議会及び都知事の行為が違法性を有し、故意過失があるとはいえない。

すなわち、右4で述べたように、議会は、人口比例により算出される数に地域間の均衡を考慮した修正を加えて選挙区別の定数を決定する裁量権を有し、その裁量がどこまで許容されるかの判断基準すなわち較差が違憲違法となるかどうかの判断基準については憲法も法律もともに明示せず、最高裁判所もこれを示していないし、下級裁判所の判例の大勢も原告らの指摘する程度の較差をもって未だ違憲違法としていない状況下において、都議会及び都知事が定数条例の改正案を議決し、これを再議に付することなく公布した行為が違法と評価されるいわれはない。

これに加えて、旧条例に基づく議員定数配分の規定によれば、最小選挙区(千代田区選挙区)と練馬区選挙区との間の較差は一対五・一五であったものが、本件改正条例によって、最小選挙区(荒川区選挙区)と練馬区選挙区との間の較差が一対二・八五へと大幅に縮小し、人口比例へより一歩進めたのであるから、この点からしても、都議会及び都知事の行為をもって違法視することには理由がないものというべきである。

なお、仮に、都議会及び都知事の行為が違法であるとしても、前述のとおり、較差が違法となる判断基準が明らかでなく、また、一見して明白に違憲違法とはいえない較差を内容とする本件改正条例を議決した都議会及び再議に付することなくこれを公布した都知事には故意はもとより過失もないものというべきである。

6  原告らは、都知事が定数条例の改正案を議会に提出しなかった点を非難する。

しかしながら、原告らの右主張は、議員の提出に係る定数条例の改正案が違憲違法なものであることを前提として、はじめて問題となるものであるところ、前述のとおり、右改正案は、何ら違憲違法なものではないから、このような場合に、都知事が独自の改正案を都議会に提出すべき法律上の義務を負わないことは明らかである。

また、仮に、議員の提出に係る右改正案が違憲違法なものであるとしても、その改正案が一見して明白に違憲違法なものとは到底いえないから、このような場合に、都知事が独自の改正案を提出しなかった行為(不作為)には何らの違法性がなく、かつ、故意も過失もないことは明らかである。

7  原告北川は、次点であったことから、定数増があれば当然に当選したと主張するが、立候補しようとする者あるいは候補者につき、公認・推薦等をする政治団体等は、選挙区の定数を考慮して態度を決するのであり、仮に練馬区選挙区の定数が増員されれば、新たに有力な立候補者が何名か出る可能性が高いと考えられる。そうとすると、定数増があれば、原告北川が当然に当選したとは到底いいがたく、定数増がなかったことが落選の原因であることを前提とする右原告の主張は失当である。

また、原告北川は、法定選挙費用の支出を落選によって蒙った損害であると主張するが、選挙費用は、結果としての当落にかかわりなく選挙に立候補して選挙活動をすること自体によって生じるものであり、当選することの対価であるとか当選することによって何らかの填補を受けるといった性質を有するものではない。したがって、法定選挙費用の支払は、落選したことによって蒙った損害ではない。

さらに、右のとおり、選挙費用は、立候補し、選挙活動をすることそれ自体の費用であって、選挙区の定数いかんにはかかわりなく生ずるものであるから、練馬区選挙区の定数を増員しなかったことと原告北川のいう損害との間には何ら相当因果関係が存在しない。

8  右のとおり、原告らの主張はいずれも失当であり、本訴各請求には理由がないといわざるをえない。

四  原告の主張

1  一般に、議会の立法活動といえども故意過失により違法に国民に損害を与えた場合、国賠法により国家賠償責任を負うのは当然であり、被告引用の最高裁判所昭和六〇年一一月二一日判決もこのことを前提としたうえ、国会の立法については、権力分立の見地から原則として国賠法一条一項の適用上違法の評価を受けないと述べているものである(右最高裁判決も立法の内容が一義的な文言に違反している場合には違法評価を受けうることを明らかにしている。)。

ところで、右最高裁判決は、憲法上裁判所と対等独立の地位を保障された国会の立法活動に関して述べられたものであり、地方自治体の議会の立法活動に言及するものではない。

地方自治体の議会は、憲法上裁判所に対する自律性を保障されておらず、その制定する条例も法律の範囲内で効力を有し、講学上行政立法として行政権の一作用と解釈されており、新潟地方裁判所昭和五八年一二月二六日判決もこの見地から新潟県議会及び同県知事の制定した新潟県風俗営業等取締法施行条例につき違法評価をしたうえで、国賠法による損害賠償責任を認めているところである。

2  被告は、練馬区選挙区の定数増がなかったことと、原告北川の落選による損害との間には相当因果関係がないと主張する。

しかしながら、原告北川は、日本社会党公認候補であり、同党は、別表記載のとおり昭和三〇年四月施行の都議会議員選挙から昭和四八年六月施行の都議会議員選挙まで、練馬区選挙区から連続して公認候補を当選させており、昭和五二年七月施行の都議会議員選挙及び昭和五六年七月施行の都議会議員選挙では公認候補を当選させることはできなかったものの次点とする実力を有しており、まして原告北川は、昭和五六年七月施行の選挙に新人として挑戦して次点の成果を収めた実績を有しており、練馬区選挙区の定数増があれば原告北川が当選したことは社会通念上明らかである。

第三証拠《省略》

理由

一  原告らが東京都練馬区に居住する東京都民であって、都議会議員選挙に関して選挙権を有すること、旧条例の定める議員定数の配分が東京高等裁判所昭和五八年七月二五日判決及び最高裁判所昭和五九年五月一七日判決により違法と判断されたこと、都議会が昭和五九年一二月一四日定数条例における議員定数の配分に関する規定に関し、都議会自由民主党、都議会公明党及び都議会民主クラブの共同提案(ただし、都議会民主クラブ所属の議員のうち、四名のものを除く。)に係る原告ら主張の内容の改正案を議決したこと、都知事が原告主張の投票価値の平等を実現する内容の条例改正案を都議会に提出せず、また都議会の右三会派共同提案の改正案の議決につき再議に付する措置をとることなく、本件改正条例を公布したことは当事者間に争いがない。

二  原告らは、地方議会の議員の選挙に関して、投票価値の較差が二倍を超える場合には、議員の定数配分に関する定めは、憲法一四条の定める法の下の平等に反するとし、都議会が、練馬区選挙区と荒川区選挙区の較差につき二・八五倍を許容する前記三会派提案の改正案を議決したこと及び練馬区選挙区の議員定数を増員する内容の定数条例改正をしなかったこと(以下この条例制定行為及び不作為を併せて「本件条例制定行為」と総称する。)並びに都知事が練馬区選挙区の議員定数を増員する内容の定数条例改正案を都議会に提出せず、右三会派提案の改正案の議決に異議を述べて再議に付する措置をとらず、本件改正条例を公布したことは、原告らの有する選挙権の投票価値を著しく侵害したとして、国賠法に基づき、被告に対して損害の賠償を請求する。また、原告北川は、議員定数の是正が違法に放置され、都議会及び都知事が練馬区選挙区の定数の増員を怠ったため、その改正が行われていれば当選しただけの得票をしたのに落選したとして、同じく国賠法に基づき、被告に対して損害の賠償を請求する。

そこで、都議会の本件条例制定行為及び都知事による原告主張の右一連の作為及び不作為が国賠法一条一項にいう違法な行為に該当するかどうかについて検討する。

1  国賠法一条一項は、国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民又は住民に対して負担する職務上の法的義務に違反して当該国民又は住民に損害を加えたときは、国又は公共団体がこれを賠償する責に任ずることを規定するものである。

したがって、地方議会議員の立法行為(不作為を含む。以下同じ)が同項の適用上違法となるかどうかは、議員の立法過程における行動が個別の住民に対して負う職務上の法的義務に違背したかどうかの問題であり、当該立法の内容が憲法又は法律に抵触するかどうかの問題とは区別されるべきであって、仮に当該立法の内容が憲法又は法律の規定に違反する廉があるとしても、そのことの故に議員の立法行為が直ちに違法の評価を受けるものではない。

また、都知事は、普通地方公共団体の長として、都議会に対して議案を提出し(地方自治法一四九条一号)、都議会の条例制定・改廃等に関する議決について異議がある場合に、これを再議に付する(同法一七六条一項)権限を有するとともに、都議会が議決した条例の送付を受けた場合、再議その他の措置を講ずる必要がないと認めるときは、これを公布しなければならない義務を負っている(同法一六条二項)が、都知事の右権限及び義務に基づく行為は、議員による立法活動と相まって東京都としての立法作用を構成するものであるから、右行為に関するかぎり、都知事もまた国賠法上議員と同じ地位にあるものというべきである。したがって、仮に都知事が都議会に議案を提出しない不作為が憲法又は法律の規定に違反する廉があり、あるいは都議会が議決した条例の内容が憲法又は法律の規定に違反する廉があるにもかかわらずこれを再議に付すことなく公布したとしても、議員の立法行為に関する前述の評価と同様に、そのことの故に都知事の右行為が直ちに違法の評価を受けるものではない。

そこで、都議会議員及び都知事が右の各行為に関し、個別の住民に対する関係でどのような法的義務を負うかについてみるに、憲法の採用する議会制民主主義の下においては、都議会及び都知事は、住民の間に存する多元的な意見及び諸々の利益を立法過程に公正に反映させ、自由な討論を通してこれを調整し、究極的には多数決原理により、統一的な住民意思を形成すべき役割を担うものである。そうして、都議会議員及び都知事は、多様な住民の意向をくみつつ、住民全体の福祉の実現を目指して行動することが要請されているのであって、議会制民主主義が適正かつ効果的に機能することを期するためには、都議会議員及び都知事の立法過程における行動で、その内容にわたる実体的側面に係るものは、これを議員各自及び都知事の政治的判断に任せ、その当否は、終局的に住民の自由な討論及び選挙による政治的評価にゆだねるのを相当とする。このように、都議会議員及び都知事の立法過程における行為は、本質的に政治的なものであって、その性質上法的評価に親しまず、特定個人に対する損害賠償責任の有無という観点から、あるべき行為を措定して、立法に関する具体的作為又は不作為の適否を法的に評価することは、原則的には許されないものである。

したがって、都議会議員及び都知事は、立法過程における行為に関しては、原則として、住民全体に対する関係で政治的責任を負うにとどまり、個別の住民に対応した関係での法的義務を負うものではないから、ある条例の内容が憲法又は法律の一義的な文言に違反しているにもかかわらず議会があえてこれを制定する場合あるいは既存の条例の内容が憲法又は法律の一義的な文言に違反していることが明白であり、かつ、右違憲又は違法の条例の改正案の発議・提出をするのに通常必要と考えられる相当期間を経過したにもかかわらず、都議会議員及び都知事があえて右改正案の発議・提出を行わない場合などのごとき、容易に想定し難いような例外的な場合でない限り、都議会議員及び都知事の右各行為は、個別の住民の権利に対応した関係での職務上の法的義務に違反するものではなく、国賠法一条一項の規定の適用上違法の評価を受けることはないといわなければならない(最高裁判所昭和六〇年一一月二一日第一小法廷判決、民集三九巻七号一五一二頁参照)。

2  右の次第であるから、本件条例制定行為及びこれに関連する都知事の前示作為又は不作為は、原則として国賠法上違法の評価を受けるものではないが、なお、これが憲法の一義的文言に反する等の前述の例外的な場合に該当するかどうかについて検討する。

(一)  前示当事者間に争いのない事実に弁論の全趣旨を総合すると、都議会は、旧条例の議員定数の配分に関する規定が東京高等裁判所昭和五八年七月二五日判決及び最高裁判所昭和五九年五月一七日判決により違法とされたことを受けて、昭和五九年一二月一四日旧条例を本件改正条例のように改正する案を議決したが、その内容は、千代田区選挙区の定数を二人から一人に、中央区選挙区の定数を二人から一人に、台東区選挙区の定数を四人から三人にそれぞれ減少させるとともに、八王子市選挙区の定数を二人から三人に、府中市選挙区の定数を一人から二人に、西多摩選挙区の定数を一人から二人に増加させるいわゆる「三減三増」による改正であったこと、選挙区間の議員一人当たりの人口較差は、旧条例によれば最大一対七・四五であったのが、右改正により、議員一人当たりの人口が最小の荒川区選挙区と最大の練馬区選挙区との間でも較差が一対二・八五に縮小したこと、右改正によってもなお、練馬区選挙区は、新宿区、品川区、杉並区、北区及び板橋区の各選挙区より人口が多いにもかかわらず、定数が少なく、いわゆる「逆転現象」が解消されなかったことが認められる。

ところで、公選法一五条七項は、本文において、「各選挙区において選挙すべき地方公共団体の議会の議員の数は、人口に比例して、条例で定めなければならない。」と規定し、地方公共団体の議会の議員の定数配分につき、人口による比例を基本的な基準とし、原則として各選挙人の投票価値が平等となる配分、すなわち、選挙区間における議員一人当たりの人口較差が可能な限り一対一に近いものとなる配分をすべきことを定めるとともに、そのただし書において、「ただし、特別の事情があるときは、おおむね人口を基準とし、地域間の均衡を考慮して定めることができる。」と規定し、人口による比例によって算出される数に地域間の均衡を考慮した修正を加える余地を認めている。

このように、公選法一五条七項は、議員定数の配分につき、人口による比例を原則としつつ、特別の事情によるその緩和を許容しているが、公選法にはその許容の具体的な限度は示されていないのであるから、本件改正条例によってもなお解消されていない前示配分の較差が公選法の一義的な文言に反するものということは到底できない。

(二)  次に、右(一)における判示に関連して、国会及び都議会の議員の定数に関する憲法及び公選法の規定の意義ないし解釈について多数の判例が示されている実情に鑑み、本件改正が行われた当時において、本件改正条例においても解消されなかった前示較差の存在が、これらの判例に表れた解釈に照らして、憲法又は公選法の一義的な文言に反するのと同視すべき程の重大な違法に該当するかどうかについても併せて検討を加えることとする。

前示昭和五九年五月一七日最高裁判決は、前示昭和五六年の条例改正によっても議員一人当たりの人口の較差が最大一対七・四五に達していた実情について、当時の定数の配分が公選法に違反するものである旨を判示したが、進んで右の較差が何倍以内であれば違法の評価を免れるものであるかについては、格別の判断を示していない。そして、他の関連する判例を検討しても、本件改正の当時において、前示許容の限度を確実に知ることができる手がかりは存在しなかったというほかはない。

そうとすれば、本件改正の当時において、本件改正条例における定数の配分に、憲法又は公選法の一義的な文言に反するのと同視すべき程の重大な違法があるものと断定する余地もなかったというべきである(なお、東京高等裁判所は、本件改正の後である昭和六一年二月二六日本件改正条例につき、公選法に違反する旨判示したが、このことから遡って本件改正条例に右の違法があるものということはできない。)。

3  そうすると、本件改正条例につき、憲法又は公選法の一義的な文言に反するか又は、これと同視すべき程の違法があるものということはできないから、本件条例制定行為及びこれに関する都知事の前示各行為は、いずれも国賠法一条一項の適用上違法であるということはできない。

三  以上のとおり、原告らが指摘する都議会及び都知事の各行為は、いずれも国賠法一条一項に該当するものということができないから、その余の点について判断を加えるまでもなく、原告らの本訴各請求はいずれも理由がない。

よって、原告らの各請求をいずれも棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 橘勝治 裁判官 大淵武男 相澤哲)

〈以下省略〉

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